焦点:被爆者がG7で訴え続ける「核なき世界」の夢と現実
ロイター / 2023年5月19日 10時59分
米国の大統領が初めて広島への訪問を果たした7年前、被爆者の森重昭さん(86)も核兵器のない未来への希望があった。写真は森さんと、妻の佳代子さん。11日、広島で撮影(2023年 ロイター/Sakura Murakami)
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Sakura Murakami
[広島(日本) 17日 ロイター] - 米国の大統領が初めて広島への訪問を果たした7年前、被爆者の森重昭さん(86)も核兵器のない未来への希望があった。
今週、米国の大統領が主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のため再び広島を訪問するなか、森さんは核兵器廃絶の夢を決して諦めていない。しかし、今やロシアのウクライナ侵攻などで世界情勢が厳しくなり、その夢を実現する難しさを直視せざるを得ない。
広島を選挙地盤とし、核兵器廃絶をライフワークとしている岸田文雄首相は、広島をサミット開催地に選定した理由として「平和を訴える上において最もふさわしい場所だ」としている。
だが、同時に今回のサミットで浮き彫りになっているのは、オバマ氏が現職の米大統領として初めて広島の地を踏んだ2016年以降に顕在化した世界の安全保障環境の大きな変化だ。
西側諸国はロシアのウクライナ侵攻により、核抑止力の重要性を再認識することになった。一方、ロシア政府は「領土の不可分性」を守るため、必要に応じて核兵器の使用も辞さないと主張している。
「ヒバクシャ」と呼ばれる日本の原爆被害者の平均年齢は85歳。その多くは、今回のサミットが彼らが生きている間に核兵器廃絶を訴える最後のチャンスになるかもしれないと考えている。広島のレガシー、つまり初めて核兵器で灰じんに帰した都市としての重みが、変革の出発点ではなく、歴史的な遺物へと後退させられるかもしれないという懸念だ。
森さんは「G7のリーダーたちには、具体的に核をゼロにすると約束してもらいたい」と期待を寄せる一方、「それは実際には難しいのではないかと思う」とも語った。
日本の与党内では長きにわたりハト派として知られている岸田首相だが、昨年、日本の戦後史上で最大となる防衛費増額を発表した。ロシアのウクライナ侵攻を機に、台湾有事に対する懸念が高まったことによるものだ。
日本は第2次世界大戦後に憲法で交戦権を放棄し、自衛隊を保有している。防衛は米国に依存している形だ。
日本人は「核の傘」を容認せざるをえないと意識しつつある、と広島大学平和センターの川野徳幸センター長は分析する。
「核なき世界という理想と、核の傘の下にあるという現実が共存している」と語り、「共存し続けているが、(より現実的な見方へと)バランスが壊れつつあるのかもしれない」とも述べた。
NHKが昨年12月に実施した世論調査によれば、防衛力整備の水準を5年間で約43兆円に増額することに対し、51%は支持し、55%が反撃能力の必要性に同意している。
<幻で終わってほしくない>
広島に原爆が投下された1945年8月6日、当時8歳だった森さんは、すぐに気を失った。意識が戻った時に森さんが目にしたのは、はみ出した内臓を抱えた女性が、よろめきながら近くの病院はどこかと聞く姿だった。
森さんは母校の校庭で焼かれていた原爆で亡くなった遺体の光景が30年経っても忘れられず、その数が気になり始めた。その後、数十年間にわたり森さんは調査を続け、原爆により死亡した米国人12人の身元も明らかになった。
広島を訪れたオバマ氏は「我々には歴史を直視する共通の責任がある」と語り、演説の中で森さんの業績を賞賛した。
演説の後、オバマ氏と森さんは抱擁をかわし、その抱擁はオバマ氏の広島訪問を象徴する瞬間となった。だが、オバマ氏は原爆投下について、被爆者の多くが期待していた反省や謝罪を直接口にすることはなかった。
森さんは、核廃絶の希望について「広島の話は幻で終わってほしくない」と話す。
米当局者によると、バイデン大統領は今回のサミット期間中に広島平和記念公園を訪れる予定だが、核廃絶についての独自のメッセージを発することはないとしている。
バイデン氏は4月に韓国との間で、北朝鮮による核の脅威に対処するため、核運用に関する協議体の新設計画を公表した。
ある米当局者は、核兵器廃絶について米国政府は特定なアジェンダを提起しておらず、日本が主導権を握っていると語った。
ドイツの政府高官は、核廃絶問題はG7において「もっぱら日本にとって重要なこと」であり、優先度の高い議題としては挙げなかった。
<難しいバランス>
G7に参加する欧州高官の1人は、将来的な核兵器廃絶への希望と現下の安全保障環境への対処と、各国は難しいバランスを迫られていると指摘した。
この高官は、ロイターの取材に対し「最終目標は核兵器なき世界だ。しかし、我々がこれまで以上に抑止力に依存しているという認識のもとでは、ナイーブに今すぐ核を廃絶するというわけにはいかない」と語った。
米国とその同盟国の当局者らは、ロシアへの懸念だけでなく、イランと北朝鮮による核開発プログラムを抑止する方法を模索し続けている。
日本政府当局者の1人は「ロシアによる核兵器使用の脅威が存在する中で、現在の国際情勢は非常に厳しくなっている」と語った。「だからといって諦めるということではない。岸田首相は、核兵器のない世界の実現をライフワークとしている」と述べた。
現在は東京で暮らす被爆者の家島昌志さんは、高齢の被爆者らは「我々の目の黒いうちに核兵器廃絶を」と訴えることが多い、と語る。
「だが、その裏ではとても間に合わないなと内心では思うことが、とても無念だ」と付け加えた。
実際の変化がなければ、広島のG7は岸田首相のパフォーマンスだけを宣伝するような会議で終わってしまう、と家島さんは語る。
「それでは、なんのために広島でやるんだということになる」と指摘した。
(翻訳:エァクレーレン)
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