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波平さんの毛を抜いたら何罪?

ASCII.jp / 2023年11月16日 7時0分

写真はイメージ

 法律の世界には、「法の不知は罰する」という格言があるのだそうだ。「法律を知らなかったことを理由に、罪を免れることはできない」ということを意味する、法律の原則。早い話が、なんらかの法律違反をしてしまったとき、「法律を知らなかったので許してください」と言い訳をしたところで通用するわけがないということである。

 とはいえ、現実問題として法律はとても難しいものでもある。私たちひとりひとりが法律を知り、理解することがもちろん理想ではあるけれど、現実的にそれはほぼ不可能であるといってもいいかもしれない。

 なぜなら法律は、内容を正確に規定しようとするあまり、文章が複雑・難解になってしまうものだからだ。事実、途中で読む気が失せたという方も少なくないだろう。したがって、「法律を正しく知り、理解する」という本来であれば“当たり前”のことが、法律に詳しくない一般人にとっては高いハードルになってしまうのである。

 今回ご紹介する『おとな六法』(岡野武志、アトム法律事務所 著、クロスメディア・パブリッシング)は、そうしたなか、少しでも法律に親しんでほしいという思いから書かれたのだそうだ。

 著者は、アトム法律事務所を創業し、グループ全国12拠点の法律事務所に成長させたという実績の持ち主。2019年からは法律をテーマにした動画配信も開始し、現在のYouTubeチャンネル登録者数は153万人に及ぶという。ちなみに、高卒フリーター生活10年を経て司法試験に合格したという稀有な人物でもある。

私たちアトム法律事務所は、日本に住む誰もが法律に親しみを持ち、法律的なトラブルのない生活を送れるようにと、ユーチューブやティックトックでの動画配信を始めました。この「おとな六法」は、私たちの4年間に及ぶ動画配信と、15年にわたる弁護士経験を、1冊の本に凝縮してまとめたものです。(「あとがき」より)

 などと聞くと「親しみやすいといいながら、じつは難しい内容なのではないか?」と疑ってしまいたくなるかもしれないが、それは大きな誤解だ。なにしろ、「学校」「職場」「犯罪」など各項目に分けられた質問がどれも非常にユニーク。しかも、それらに対する答えは素人からしても理にかなったものばかりなので、いろいろ納得させられるのである。

波平さんの毛を抜いたら「傷害罪」の可能性

 たとえば、こういった質問が登場したりする。

サザエさんの波平さんが大切にする1本の髪の毛を抜くのは犯罪ですか?(44ページより)

 突拍子もない質問のようにも思えるが、他人の毛を抜いた場合は、傷害罪に問われる可能性があるらしい。

 なお傷害罪とは、他人にケガをさせた場合に問われる犯罪のこと。もしも波平さんが大事にしている髪の毛を引き抜いたとしたら、「毛根の近くの血管や頭皮を傷つけた」として傷害罪が成立する可能性があるというのだ。いわれてみれば波平さんに限らず、喧嘩をした人間が相手の髪の毛を引っぱって抜いたりしたら、いかにもそれは傷害罪っぽい。

波平さんはこれまで数々の髪の毛との別れを経験し、残ったあの1本の髪の毛を大切にケアしてきたわけやん。そんな波平さんの気持ちを考えたら、もしおれが検察官なら絶対に許せないし、何とかして傷害罪で起訴したいって考えるやろな!(46ページより)

 考えられることはそれだけではない。仮に波平さんの1本の髪の毛を「抜く」のではなく「ハサミなどで切った」としたら、暴行罪に問われる可能性もあるのだという。暴行罪とは他人に暴力をふるう犯罪のことで、傷害罪との違いは「相手がケガをしたかどうか」。要するに波平さんの場合、「ハサミで切られた」ことが「暴行された」ということになることも考えられるということだ。

 実際にあった裁判例では、女性の髪を切った場合に暴行罪、女性の髪をすべて切ったり剃ったりした場合には傷害罪に問われたケースがあるのだそうだ。つまりそうした裁判例を踏まえると、波平さんの髪の毛を切っただけなら暴行罪に当てはまるわけである。

 そもそも、波平さんが大事にしている髪の毛を抜いたり切ったりするなどということ自体、モラル的に絶対やってはいけないことでもあるのだから。

結論 髪の毛を抜いたら、傷害罪になる可能性がある。 要点1 傷害罪は、人にケガをさせたら成立する。 要点2 毛を引き抜くと、毛根の近くの血管や頭皮を傷つけたとして、傷害罪になる可能性がある。 要点3 毛を抜くのではなくハサミで切った場合は、暴行罪になる可能性がある。 (47ページより)

「ゾンビを殺すのは犯罪?」などユニークな例で法律を解説

 このように、波平さんの髪の毛のようにユニークな例を用いながらも、あくまで法律的な観点からきちんと解説している点が本書の魅力。だからこそ、「ああ、なるほどね」と納得することができるのである。

 他にも「ウルトラマンが怪獣と戦う中で街を壊すのは犯罪ですか?」「ゾンビを殺すのは犯罪になりますか?」「裁判中に、裁判官がうんちをしたくなったらどうなりますか?」など、“答えがちょっと気になる”トピックス満載。

 そのため読みものとして楽しみながら、法律の知識を得ることができるのである。

■Amazon.co.jpで購入
  • おとな六法岡野武志、アトム法律事務所クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

 

筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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